経験がなくてもわかる注文住宅
「この家を得て、私は年をとるのが楽しくなりました」いいことずくめのバク・ファームだが、一つだけOさんにとって計算外だったのが隣家の目である。
古くからの住民が多い地域において、女性が一人で家を建てて住むのは近所のおばあさんたちには奇異に映ったらしい。
家が建売住宅風ではなかったことも反感を買った。
大工さんは「どんな人が住むのだと、根掘り葉掘り聞かれて困りましたよ」とOさんに報告した。
建築基準法違反ではないかと疑われたり(違反はないが)、外で会ってもじろじろとにらまれたりと不愉快なことが続いたそうだ。
「おかげで二階のテラスで朝お茶を飲む、という計画がまだ実行できていないんです。
隣のおばあさんにじっと監視されているもので」。
Oさんは苦笑した。
女性が一人で家を建てることに対する世間の偏見は、まだまだ根強いのかもしれない。
それでもこれからはきっとOさんのような女性が増えていって、偏見はなくなっていくだろう。
家族とつくる“巣”ではなく、子育ての場でもなく、「私ひとりの時間を豊かに抱いてくれる空間」を求める女性の要望をかなえてくれる家も、一つの定番タイプにきっとなるはずだ。
Oさんの家を見ながら私は確信した。
男にとって家はおもちゃ?女性が舞台の上で生活を演じているような家を建てるのだとしたら、男性はいったいどんな家を建てるのだろう?取材を重ねるうちに、男性と女性では家に求めるものが、ときには根本的にちがうことがいまさらながらわかってきた。
女性はまずは生活ありきで家を考える。
男性にとっての家はいいかたは悪いが、まずは「遊びありき」、なのではないか。
夫が主導権をとって家を建てたある妻が、かげでこっそり私にいった。
「夫にとって、家はおもちゃなのよ。
家づくりに夢中だったこの二年、あの人は本当に楽しそうでいきいきしていた。
あの顔見たことがあるなあと考えたら、その昔、プラモデルをつくっていたときの顔なの」。
それでも配偶者のいる男性は、いくら主導権をとっていたとしても、妻の意見を聞かないで一人で「おもちゃと遊ぶ」わけにはいかない。
それなら女性の意見をまったく聞かなくていい男性が家をつくったらどんなものになるのだろう、と考えていたところに、ぴったりの取材対象者があらわれた。
Tさんは一九九八年に渋谷区に家を建てた。
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